<主張>
ナースと市民の会・会報誌「ナース21」から転載しました。

掲載分は以下の通りです。
1.カンニングと看護留学  2.平成不況の今こそ、看護留学のチャンス

1.カンニングと看護留学 長倉 功(前・朝日新聞編集委員)

No.11より転載(1998.9.20)

 九二年三月、朝日新聞の家庭面に「ナースを支える市民の会」を紹介した。送られてきた資料の「海外留学の支援」がよい発想で、看護を学んだ記者としても正しい手段の一つだと思った。看護婦には苦しい道だが、医師から独立して自分で判断する知識と姿勢を持たねば、患者のための看護は難しいと以前から考えていた。載せたいと思った。

 だが掲載には苦労した。一言でいえば徳永清さんの信用問題だ。今では一種の有名人だが、当時はどこの誰とも分からない。「看護婦の留学資金を募っている」と紹介し、もしお金を送った人とトラブルが発生したら、「なぜ詐欺団体を載せた!」とお叱りが来て、記者が叱られる。新聞の信用問題にもなる。

 市民団体を記事にするときにつきまとう問題だが、信用は確認が難しい。無難な道を選ぶなら、掲載を最初から考えないだろう。

 しつこく徳永さんに聞いた。今となっては笑い話だが、海外留学費用の振込用紙まで送ってもらった。

 本音を明かせば、手段を尽くしても信用できる確信が持てなければ、載せるのをやめることが多い。希代の詐欺師をマスコミが応援してしまった例はよく聞く。

 信頼できると確信できたのは、実は「カンニング」だった。いや、ずっと以前に徳永さんが出版した『カンニングの研究』(光文社・1965年刊)だった。学生がどんなカンニング法を使うか、そのためにどんな努力を積み重ねるかを書いた本で、実例が生き生きと面白く、ベストセラーになったと思う。

 私の弟がカンニングのベテランで、あらゆる方法を試していた。話は面白い。試験監督が教室を回る。後ろから前へ行き過ぎたら普通は「チャンス」だが、まれにアトランダムにクルッと回って戻って来る先生がいて泣かされる。こういう抜け目のない先生は、必ずゴム裏の、音のしない靴をはいている――そんな話に何度も大笑いしたものだ。

 徳永さんのカンニングの本は、弟の話と見事に重なった。監督者でよくここまで探求したと感心し、強く印象に残った。それに記述が「けしからん」と肩をいからせるのではなく、正道を求めながらもカンニングに苦笑する雰囲気で、すがすがしかった。

 取材で徳永さんがカンニングの本の著者と知ったとき、「この人は信頼できる」と確信した。相手の立場で考えることができ、求道者だが取り澄ました道徳主義者ではなく、理性に裏打ちされた温かさを持ち、自分に出来る「社会によいこと」を楽しみながら追求できる人物でなければ、カンニング探求の出版も看護婦の留学支援もできない。

 それから六年。会がマットウだと少しずつ世に知られてきて、ご同慶の至りだ。定年になったから、出来るお手伝いをさせていただこうと思っているが、こういう得難い人物に接することができて光栄と同時に楽しみだ。奇抜に見える正道を何かと学べることだろう。   

     


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2.平成不況の今こそ、看護留学のチャンス! 

徳永 清(ナースと市民の会代表幹事) No.12より転載(1999.7.15)

 「どうも、よくない」。「不景気は、どこまで続く?」。
と、どちらを見ても不景気な話題ばかりだ。
 今年こそ、不況は、もとの水準まで、横バイから上昇曲線に転換するだろう……という楽観論も、チラチラ見え隠れするが、現実はキビしいのだ。なかなかそのようには動いてくれない。
 一般論では「看護婦の海外留学など、とんでもない!」という、ごく平凡な反対意見が、ひそんでいるようだ。
 逆説的な意見ではあるが、その昔、不況の現実の反対側の虚をついて、かなりの数の留学生が出国した。
 われわれ「ナースと市民の会」で接触し、海外留学へ飛んだ先輩のなかには、景気の回復の如何を度外視して「私費留学という自由な立場で、ついに敢行した人々が多い。
 海外の(とくにアメリカ等は景気がよくて、日本での悲観論などは思考のなかに入っていないケースも多い)狭い日本の景気後退論は、逆手にとって、強い拒絶は、かえって興味が増幅するものだと、発想を変えてほしい。
 日本のひそやかな平成不況の中で、留学のチャンスを強い意志で逆転実行させる芽が、育っている場面が多い。
 今こそ、チャンスだ! と主張したい。


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